〜王国の浪漫話〜

　
　野っぱらをぬけて森に入り、少し行った所に彼らの村はあった。
「村」と言ってもそこには家らしきものは何もなく、
彼らにとっての公園のようだった。数本の古い倒木と
落ち葉を集めて作ったらしい小さな丘がうまくまるい
「輪」になっていて、僕の腰下くらいの高さに
白っぽい花が数輪ほど咲いていた。長老さまが一声かけると
倒木の中から、草影から、木の根元から、
わらわらと「小人」が姿をあらわした。
（うわ・・・いるとこにはいるんだ・・・。）
「ナンちゃろまい？」「くゆりふ？いいな〜」
「ザツ！やんしゃー！」「やはうぇー！！」
聞こえてくる言葉は僕にむかってか、単なる独り言か、
まるでわからない。
「何て言ってるの？」僕は右隣りにいた男の子に聞いてみた
「う〜ん、フルいコトバなんだ、ぼくらがヒトとおなじコトバを
はなすようになったのはひゃくねんくらいのもんだから。」
「あ、あの、ようこそ、って、言ってます。」
男の子の後に女の子が補足を入れた。
小人たちは「輪」になった丘や倒木の上に「配置」についた。
そして僕はその中で一番大きな倒木に
腰掛けるようにと言われた。僕の両隣りには最初に出会った
あのふたりが座った。　　　　　　　　　　　　　　　　　
僕の真ん前の落ち葉の丘には長老が座っていた。
その横に座っていた老婆の小人がちょこちょことやってきて、
顔中いっぱいの笑みに両手いっぱいの
熊イチゴを無言でさしだした。
「おくりものだって。」
僕の右隣りに座った男の子が通訳した。
「ありがとう。」そしてぼくはその贈り物を受け取ったあと
リュック・サックからカステラやら煎餅をだして
「みなさんで召し上がってください。」と言った。
お婆さんは一瞬目を白黒させたが、やがてその中から
ビスケットを一枚抱えてぺこりと頭を下げたあと
元の席へ戻っていった。　　　　　　　　　　　　　　　　　
他の小人達はじっと見ている。
「他の人も遠慮しないで、食べてください」
そう言うとわらわらとお菓子を持った僕の右手に集まってきて、
一人づつ「おれ、これ。」「この黒いのくれ。」
　　　　「オレ、アマイノ。」「食ウチャロマイ」と、
銘銘に好きな菓子を一つづつ取って自分の席についた。
いやはや、なんと礼儀正しく秩序ある人たちだろうか。
こちらも、それなりに
相手を思いやったやりとりをこころがけるべきだろう。

「それじゃ、食べながらでも気楽に聞いててください。」
そして僕は彼らに聞いてみたい事はないかと問いかけながら
自分が見てきた人間界の話を話し始めた。
　
ある宗教団体の暴走的事件、コンピューターの発達、
新しく発生した病気、僕自身の町での一日の生活。 　
そんな中で彼らが最も興味を持ったのは
現実の人間の生活ではなく、
テレビやマンガの中での作り話だった。 　
ファンタジーものに出てくる「小人」や、「ノーム」の話で、
「ノーム」が地震を呼び起こした話をすれば
「そんなツゴウのいいハナシがあるかい！」
「いやいや、世界は広いから
　そういうすごい種族もいるかもしれない。」
「イワオヌプリの村に 　
地震をピタリと予言するじいさんがいたなあ。」 　
などと論争になり、
羽の生えた妖精が出てくれば
「ヒャアッ、気持ち悪い」
「ベンリそうでいいなあ」
「ヒトの想像力って、時々びっくりするんだよね」
　などと僕の予想しない反応が返ってきた。
そして「ドラゴン」の話をしたとき、
全員なぜか黙りこくってしまった。


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