霧の港に船が着く
水の無い大地に船が着く
懐かしい人々がじっと僕を見つめてる
霧が晴れるより早く船は出る
少年は船を追いかける
しかし船は瞬く間に遠ざかり
気づけばそこは見慣れた森
やさしかったじいちゃんがあの船に乗っていた
泣き虫少年の一番の味方
でもじいちゃんはもういない
少年は悲しかった
いくら泣いても泣き足りなかった
少年は知っていた
あれは死者を運ぶ船だと
船は毎年やってくる
今年も少年は船を追う
優しいじいちゃんに会うために
しかし船から降りる者は無く
少年は船に乗せてもらえない
ある夏の日少年は
おじいちゃんの夢を見た
ボウズ、おまえは生きるのだ
おまえは強い男になるのだと
少年は飛び起きて
夏の夜空の下を走り出す
目指すは船着場
今年も船はやってきた
となりのおばあちゃんが来ていた
ゆっくりと船から梯子が降りておばあちゃんは昇って行った
少年はじいちゃんの形見のナイフを腰に下げたと確認し
はしごの下に飛びついた
船の上に躍り出た少年は操舵室を目指して駆け出した
しかし、行く手をふさいだ黒マント
ドクロの仮面の船長は
剣を掲げて襲いかかる
少年はヒラリひらりと剣をかわす
この力はどこから湧いてくるのだろう
毎年船を追ううちに少年は気づいていた
この船に乗った者は死ぬのだと
しかし少年は恐れない
「ぼくはじいちゃんの子だ泣き虫じゃない!!」
ついに少年のナイフがドクロの男の腹に突き刺さる
ドクロの男は霧になった
船が汽笛を鳴らす
となりのおばあちゃんが
僕に言った
もうお行き、この船は出てしまうから
お前の勇気はきっとおじいちゃんもわかってくれたと思うから
おじいちゃんはお前に生きろというはずだよ
少年はうなづく
はじめから生き返るはずは無いと
知っていた
梯子を降りてふりむくと
ドクロの船長が笑っていた
「少年よ、この船に乗れるのは精一杯生きたものだけなのだ」
その言葉を最後に船は霧の向こうへと消えて行った。
あの船に、いつか僕も乗れるだろうか
死者の船は魂の船
繫がれてゆく命の船
少年は生きる
精一杯生きていく